ちぐさ賞ライブ選考会配信を聴いて 瀬川昌久

  まず、海野百合香のユーフォニアムから始まったのには驚いた。日本でもユーフォニアムは確か、ノーステキサス大学 ワン・オクロック・ラブ・バンド出身の人などが従来から合奏を組んで出ていたことはあったが、彼女のようにユーフォニアムのソロをフィーチャしたグループは聴いたことがなかったので、大変新鮮だった。楽器の音色の特殊性などから、アドリブフレーズの作成は相当難しいと思うが、そのチャレンジ精神を歓迎する。楽器として非常に良く似ているフレンチホルンの名手ジュリアス・ワトキンズのCDがかつて沢山発売され、ギル・エバンスのアレンジに多数応用されていたので、今後はアンサンブルの制作も研究して欲しい。

 次のアルトサックスのSHUNSEIのプレイは、まずその厚い重量感を維持しながらアドリブプレイにも精出しているのに感心した。現在、アルトサックスのプレイヤーは多様な奏法を駆使する名手がいっぱい出ているので、その中でさらに傑出するには、彼の持つ重量感を武器にして多様なアドリブプレイを開発していくのが良く、私としては相当な評価を与えたく思った。

 次にテナーサックスの中根佑紀のゴリゴリした厚みあるプレイが、連続して出て来たのには相当驚いた。前者のSHUNSEIの様なメロディをストレートにぶ厚く吹きまくるのと違って、彼にはソニー・ロリンズ以来の伝統的なテナーと、ジョン・コルトレーンから現代までのコンテンポラリーなアドリブが頻繁に出て来るので、自らの演奏曲の構成力をいかに今後ブラッシュアップして行くかが課題となると評価した。

 ベースの小西佑果は、長年のベースに対する勉強と研究の成果を持つ意欲的なプレイヤーで、ベースについての自らのアドリブプレイと伴奏のピアノやドラムス、或いは将来はギターとの共演によって自己のグループのアンサンブルにも特色を出して行くよう期待したい。

 最後のピアノの稲荷周佑は、昨年のコンテストの次点者であるだけに非常に完成された演奏を提示した。

 ラフな感触を記したが、総じてコンテストの水準が年々向上していることを明瞭に看取し、関係者の努力に感謝したい。

 

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評論家の瀬川昌久さんには、昨年から名誉審査員長をお願いしています。

10/3のライブ選考YouTube配信分は https://youtu.be/CHKXOBKjjzc

編集版は https://youtu.be/2900tkJD8y8 でご覧ください。

 

(お知らせ)瀬川昌久さんは2021年12月29日午後3時54分、肺炎のため東京都内の自宅で亡くなれました(享年97歳)。いままでジャズ喫茶ちぐさを全力で応援していただいたことに感謝し、謹んでおくやみ申しあげます。