一般社団法人ジャズ喫茶ちぐさ・吉田衛記念館定時総会 あいさつ 代表理事 藤澤智晴

 

  一年を振り返るとき、コロナ禍のような大きな変化を前に、いつもと変わらないはずの日々の営み、一日の重さを改めて思う。ちぐさに居て当たり前の柴田浩一のことだ。ジャズに育まれ、ジャズと格闘し、やがてジャズに人生を賭けて生きた男。オヤジ(吉田衛)亡き後、柴田がちぐさのオヤジだったか。だからいつも命令口調。

 

 「おまえがこれをやれ!」オヤジの言うことは絶対、だからみんな従う。というより、柴田の口を通して聴くオヤジの生きた言葉を喜んだ。

 

 ちぐさは再びオヤジを失ってしまった。オヤジのいないちぐさはまた漂流するのか? 否! “BEGINNING TO SEE THE LIGHT” オヤジ柴田は最後の仕事(作品)を通してちぐさの進む道をはっきりと示して逝った。自らの死を目前にしてなおそう言わしめるジャズの力を。ミュージシャンたちの心を込めた演奏を引き出すことで、エピソードいっぱいの暖かい対話によるライナーノーツで、そして何より重篤な病を忘れさせる満面の笑みに込めて。

 

 この時代、好むと好まざるに関わらず、人も社会も、もちろん私達のジャズ喫茶も不断の変容を迫られているのかも知れない。そうであるならば、自らの意思で変わろう。レコードに針を落とし続けるというジャズ喫茶の原点を見失うことなく、困難な時代をしなやかに生き抜く知恵と力を備えよう。

 

 新しい年もジャズ喫茶ちぐさに在って、ジャズの楽しさを分かち合うために手を携え歩んでいきたい。次の世代にちぐさを確実に引き渡す日まで。

 

(われわれの仲間だったジャズ解説者・柴田浩一は2020年3月31日に逝去しました)