鶴見小野駅近くにある東洋化成末広工場でカッティング終了

 2014年1月29日鶴見にある東洋化成の工場にてカッティング立会い。これでレコーディングから続く私のサウンドディレクターの仕事は終わる。

 先日、六本木のサンライズスタジオにて高音質のデジタルオーディオデータをアナログテープに移す作業を行った。創業41年と長く営業しているレコーディングスタジオではあるが最近はデジタルレコーディングがやはり主流で、アナログレコーダーを5~6年振りに扱うらしくテープを眺めながら感慨深そうにしていた。

 東洋化成のカッティングルームにてアナログテープからレコードへ音を移す。正しくはマスター制作に向けた音質の最終チェックだ。
 ラッカー盤と言われるテスト用ののっぺらぼうのレコード盤に針が落ち美しい円を描きながら音を刻む。レコード片面分の曲を刻み終わり見覚えのあるレコードの面が出来上がった。それを聴く。

 デジタルデータからアナログテープへ音を移した時には感じなかった音の変化がアナログテープからレコード盤へと音を移した時大きく感じた。
 それはデジタルデータでもなく、磁気データでもない。実物として目の前に存在するレコードの溝から針が擦られ音を発し、実像が目の前にある感覚。もちろん微細な溝と同じように繊細な音だ。以前よりも音に角が取れ、

音楽が空間になじむ。

 去年10月、私がこのプロジェクトに参加した。現在圧倒的に生産が少なくなったアナログレコード作成に多くの人が知恵を持ち寄りレコーディングに向け、プレイヤーもスタッフも一眼となって挑んだ。1/4の怒涛のレコーディングを終え、翌日に私の手元に音源が届く。
 それからアナログテープ・レコードと媒体を移すたびに人の手を介す。アナログレコードが主流だった時代から音を伝えるための技術を持った仕事人の手を。その度に、このレコードに関わった人の全ての思いが凝縮していくように感じる。

 そんな事を流れるレコードを聞きながら思っていた。
 微調整を行い最終調整終了。これでテスト盤は役目を終えマスター制作用に本番のカッティングが行われる。私の役目もここで終わり。次にこの音楽を耳にする形はリスナーの方々が手にする製品のLPレコードになった時だ。

CHIGUSA Records Sound Director 江口丈典